七年越しの夢の軌跡―中堅現場監督が叶えた待望の住宅プロジェクト
海岸の斜面に張り出し、独特の存在感を放つ一軒の住宅。
箱型の重厚なボリューム感を持ちながらもふしぎな浮遊感があるのは、中空が軽やかに抜け、細部のディテールが華奢で柔らかいイメージを持つからかもしれません。
この建築は、マウントフジアーキテクトの設計による『海辺のトーン』。
そして施工管理を担当したのは、当時入社7年目のYさんでした。
実は山口さん、学生時代に大同工業を志望した理由こそが「マウントフジアーキテクトの住宅を建てたい」というものだったのです。現場監督としての人生をスタートさせ、5年の年季を明け、ついに訪れた夢の瞬間。
待望のプロジェクトについてお話をお聞きしました。
一番うれしくて、一番大変なプロジェクト
伊東本社、藤沢支店の両拠点にて、持ち前のガッツと実直さで別荘や個人邸、集合住宅などさまざまな現場を担当してきたYさん。
入社後7年目にして、ついに待望のマウントフジアーキテクト設計による住宅の施工担当者となったのです。『海辺のトーン』あらため『七里ガ浜プロジェクト』は、施工に関して大変課題の多い建築だったといいます。その点に関してYさんは次のように説明してくれました。
「希望していたマウントフジのプロジェクトでしたが、それまでで一番厄介な現場でもありましたね。設計から毎日新しい資料が送られて図面を微調整、微調整、という感じで…。敷地も海岸線の絶壁なんですが、江ノ電が真下を走ってるんですよ。環境もかなりシビアでした」
さらに同設計事務所は斬新なデザインゆえに、難しい施工や美しい納まりへの要求は必至の状況だったといいます。
4種の異素材ハイブリッド!驚異の階段納まり
「特に大変だったのは階段の納まり」とYさん。この階段は、室内に入れば誰もが目を奪われるであろう、当プロジェクト一番の目玉といっていいような特徴的なデザインを持っています。縦方向に積層されたアクリルと木が建物全体を上下につなぎながら、斜めにRCへ切り替わるというデザイン。
「設計からこうしてほしいっていう要望は一応あったんですが、実際の納まりは自分で考えなきゃいけない。RCの型枠大工に打設業者、支持プレートを担当する鉄骨業者、アクリルのプレカット担当のガラス業者、木部のプレカット業者、いちいち業者と話しながら納まりとか寸法、工程を決めていきました」
たった一か所の「階段」であるにも関わらず、あらゆる業者と打合せを重ね、施工図を検討し、ち密な段取りのうえ施工に至ったということでした。図面の段階では難解を極め、「お客さんも理解しているのか…?」と一抹の不安を持っていたそうですが、完成後の美しい仕上がりは、すべての関係者を感動させたといいます。
当たり前に現場を完了させる喜び
ほかにも、海岸を一望できるリビングの巨大ガラスを建物上部に作った架台で引き上げて搬入した話、RC打設面を不自然なほどPコン穴(型枠の跡)がなくフラットにした話、誰も施工ができない金属性の網戸を自身で張った話など、苦労や工夫した点についての話題は尽きませんでした。
そんな中、当プロジェクトで一番嬉しかった点をお聞きすると、Yさんはこう答えました。
「嬉しかったのは、雑誌に載ったのはもちろんですが、工期も間に合ったうえに利益もきちんと出たことです。やっぱり自分で管理するとそういうところに嬉しさを感じますね」。
「部長がサポートしてくれたもの大きいですが、大きい段取りのミスだとか失敗がほとんどありませんでした。設計と頻繁に打合せ出来たのも良かったかもしれません。職人にもすごい助けられて、間違いなく一人じゃできなかった」。
建材や施工内容がパターン化して工期や利益が見込みやすい建売住宅などとは大きく異なり、大同工業が手掛ける住宅は全てがオリジナルで並大抵ではない技術と管理力を必要とするはずです。
そこには、現場監督の采配次第でプロジェクトの成功を左右してしまう怖さが存在するかもしれません。七里ガ浜プロジェクトでは、Yさんの経験値だけでなく、設計事務所の担当者と密に連携が取れたこと、部長の補助があったこと、熟練の職人たちに助けられたことが成功の理由だとお話してくれました。
気合・根性だけじゃない、チームの重要性
仕事をするうえで大切にしている点をお聞きすると次のように答えてくれました。
「ごめんなさい、古臭いですけど根性と気合、粘り強さはとりあえず持っていないとですかね。あとはストレス発散、美味しいご飯も必要ですね」
うかがったお話からは、普通ならば怖気づいてしまうような内容でも積極的に楽しんでいくYさんの姿勢が随所に垣間見えました。さらにYさんは、コミュニケーションを第一に、独りよがりにならない体制を大切にしているといいます。
「設計事務所にはすぐ相談しています。相談すればきちんと考えているんだなと認識してもらえるので。会社とか職人にもとりあえず困ったら相談しますね。悩んだら2分後には電話しています。上司の顔色はうかがいつつですが(笑)」
最後に10年後のイメージをお聞きすると「周りから信頼され、なんでも任せてもらえるようになりたい」というYさん。「根性なんてこれからの人には通用しないですかね」といいながらも、その笑顔の奥には確かな情熱と仕事への誇りが垣間見えるのでした。
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